大判例

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札幌高等裁判所 昭和27年(う)494号 判決

検察官の控訴の趣意は検察官の提出した控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。その控訴の理由は原判決の量刑が軽きに失するというのである。

原審で取調べた証拠によつて犯情を考えると、被告人は強盗の目的で田上宏とその妻及び三人の子すなわち田上の世帯全員を殺そうと決意し、就眠中の右五名の頭部に打撃を加えてその二人を死に致し他の二人に重傷を加えたものであつて、その所為はまことに兇暴であり、その結果また極めて重大である。被告人は本件犯行につきかねて周到な計画をめぐらしたのではないが、弁護人所論の如く狼狽の極兇行に及んだものとはみとめられない。かく考えると本件の犯情は極めて重いと言わねばならぬ。また、生命の安全は基本的人権として最も重んぜねばならぬに拘らず、やゝもすると人命を軽ろんずる犯罪の行われる今日、犯罪を防圧するという刑罰の目的から考えても本件の犯行は軽視できないものがある。その他諸般の事情を考えると、被告人は若年であり前科もないのであるが、原裁判所が被告人を無期懲役に処したのは量刑が軽きに失したものとせねばならない。本件控訴は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十一条により原判決を破棄し、同法第四百条但書によつて直ちに判決することゝする。

原判決の認定した事実に法律を適用すると被告人の所為中住居侵入の点は刑法第百三十条に、稔と康江を死に致した点は各同法第二百四十条後段に、宏と津代乃、笑美子を傷つけたが殺害の意を遂げなかつた点は各同法第二百四十三条第二百四十条後段にそれぞれ該当するところ、以上の各強盗殺人及び各同未遂と住居侵入とは手段結果の関係にあるから、刑法第五十四条第一項後段第十条によりいずれも重い強盗殺人及同未遂罪の刑に従い、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるが、稔に対する強盗殺人の罪について所定刑中死刑を選択してこれを科することゝし、同法第四十六条第一項により他の刑は科さない。

(検察官の控訴趣意)

右被告人田中昭義に対する住居侵入強盗殺人、同未遂被告事件について申立てた控訴の理由は左の通りである。

控訴理由第一点

本件判決は刑の量定が不当であり検察官の求刑通り死刑の判決を相当と思料されるので控訴に及んだ次第であるが、其の理由は次の通りである。

一、犯行の動機が金銭慾の外他意無きこと。即ち被告人は兄が怪我をして長期に亘つて加療におり家計が苦しかつたこと。自分が買つたオーバーの代金支払に苦慮していたこと、妹清子が昭和二十七年三月二十八日結婚式を挙げることになつていたが同女に訪問着の一枚も買つてやりたいと思つてゐたこと等よりして二、三万の金を入手し度いと渇望しておつたことが本件犯行を犯すに至つた動機であり、被告人は人の生命を奪つても金銭を入手したいと謂う鬼の様な心を持つているのである。

二、金銭奪取の対象として隣人を択んだこと。

被告人の家は被害者田上宏方と同一部落内にあり謂はゞ隣人関係にある。諺にも「遠い親類より近き他人」と言う如く隣人相互の間に於ては慶弔の孰れを問わず相倚り相援くるは情の自然なるものであり人倫亦之を是としているのである。

然るに被告人は自己の金銭慾の満足を得んが為に此の隣人である田上方を深夜不法に襲い其の家族の罪もなき童児の生命を一つならず二つ迄も奪いたるのみならず更に田上宏夫婦及一児に重傷を負はしめる挙に出でた所為は正に天人共に許さゞる殺人鬼と評さゞるを得ない。

三、被害者一家鏖殺の犯意ありたること。

被告人は被害者田上宏並に其の家族と日頃より顔見知りであつた関係上犯行の際同人等より自分の顔を見られたならば直ちに識別されるであらうと考へた結果其の場合は田上一家を鏖殺しようと決意したものであることが認められるが、斯る心境は性善なるものとしては決して有し得ないものである。

四、社会人心に及ぼした影響も些少ではないこと。

本件の発生したのは昭和二十七年三月十四日午後十時過頃であるが翌朝隣人草薙一子等によつて発見せられ時を移さず捜査の手が延べられたのであるが半月を経るも犯人の検挙に至らず津別町内は勿論同町附近一帯の人心をして各自の身体生命財産が法秩序によつて安全に保障されていると言う安全感を根底より覆へらしめ恐怖のどん底に突き落したのである。而して被告人が逮捕されたのは同年四月二日であるが此の間被告人は日常と何等変ることなく薪伐り等の仕事に従事しておつたものでその大胆不敵さは人をして舌を巻かしむるものがあつた。之れ被告人の悪性大なることを認むべき証左である。

五、実害の大なること。

本件被害事項は

田上稔(当時満四歳)

同康江(当時満一歳)

の両名の殺害と

田上宏(当時満三十五歳)全治約二ケ月

を要する頭部割創等を

田上代津乃(当時満三十歳)全治四十日

を要する頭部顔面割創等

田上笑美子(当時満二歳)全治約四十日

を要する前額割創等

の傷害であり之等は孰れも被害人の殺意である暴行に因るものである。之は単独犯行によるものとしては其の被害の大なること比類尠きものと言はざるを得ない。

以上の理由を綜合考量すれば本件に対して無期懲役の刑を科するに於ては警世の効果尚薄弱なるものありと思料せられるにつき検察官求刑の如く被告人を死刑に処するとの判決を得度く控訴理由以上の通り申述べます。

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